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SS:カフェにて

カフェにて CP:なし(薔薇水晶←雪華綺晶)&水銀燈 ※擬人化

覚えなきこと招かれざるものとリンク。
雪華綺晶と水銀燈の密談。

私はお父様を愛してる。

お父様だけじゃない。
金糸雀も真紅も愛してる。
例え私を愛していなくても
私が愛しているならそれでいい。

お風呂の栓を抜いたらお湯は排水溝へ流れていく。
ぐるぐると、小さな渦を起こしながら。
やがて浴槽になみなみとあったお湯は
綺麗さっぱりなくなってしまう。

ぐるぐると考えをどんなに巡らせても、
結局答えはいつも同じ。
私の感情は、いつもそんな風に綺麗にまとまっていた。

例え愛してくれなくてもいいの。
だって私が愛してるから。
それで満足していたの。
それが当然だと思っていたの。



*



「当然なわけないじゃない。」

私の愛に対する観念を聞いていた水銀燈は一蹴した。

「それが普通なら世の中聖人君子ばっかりよ。」
「あなたも同じね、みんな同じことを言う。」
「当然でしょ。普通は好きになって欲しいって思うのよ。
 なによその綺麗ごと?聞かされる身にもなってみなさいよ。」

綺麗ごと?
果たして綺麗ごとだろうか?
家族を愛するのは当然だと思う。

「その分だと、もしかして恋愛できない体質?
 男振りまくってるのもそのせいかしら。」
「単にその人たちに魅力を感じなかっただけ。
 それに恋愛ならしてる。好きな人はいるもの。」

声をかけてくる男性は結構いる。
が、大半の目的は丸わかりなので適当にあしらっている。
小中高と異性どころか同性からも煙たがられていたので
中々不思議な状況だ。
過去の同級生たちが賢明だったのか、今声をかけてくる男性たちが
愚かなのかは分からない。
水銀燈に言わせれば私は感覚が麻痺してるらしい。

「でも自分が愛してればいいんでしょう?」
「ええ。」
「バッカじゃない。」

鼻で笑われた。

「結局相手がいてもいなくても同じじゃない。」
「議題は愛をどう考えているか、でしょう?」
「あくまでも恋愛だろうと家族愛だろうと同じ愛ってこと。」
「ええ。」
「じゃあなんで自分は恋愛してる。この人が好きって分かるのよ。
 区別つくの?というか区別ついてるの?」
「お姉さまは何か勘違いしてるみたい。
 私は恋愛感情と家族愛の区別はついている。
 ただ相手が私のことをどう思っていようと構わない。
 私が相手を好きならそれでいいの。」
「自己完結で終了ってわけ。」
「そう。」
「好きになって欲しいとか何かして欲しいってことも?」
「何も望まないわ。」

ここまで言っても水銀燈は分かってくれないらしい。
明らかに何か企んだ策士の顔をしている。
まるで金糸雀のようだ。

「ふぅん?じゃあ実験しましょうよ。」
「どんな?」
「そうね、何か相手にしてもらうの。それで嬉しい
 もっとして欲しいとか思えばちょっとは分かるでしょ。
 ていうか分かりなさいよ。」

意地でも私の意志を変えたいのだろう。
水銀燈はかなり負けず嫌いなところがある。
そういった意味ではまるで真紅を見ているようだ。

「そう。でも何をするの。」
「そうね~まぁ、定番じゃない?どこか出掛けて、一緒に食事でも……」
「お金がかかるのはだめ。遠出も。親の許可がいるから。
 夜更かしするのもだめ。」
「はぁ?中学生じゃないんだから。」
「中学生よ。」
「はぁ?」
「だから中学生。」
「……はぁ!?」

テーブルに手を叩きつけ、水銀燈が立ち上がった。
一瞬、周りの音が途切れる。
ああ、ここは大学近くのカフェなのに。
当然他に客もいるし、見たことあるような顔もちらほらと。

「なんですって!?」
「ちゅうがく」
「分かってるわよ!男!?」
「女の子。」
「……嘘でしょ?」
「一目惚れだった。」
「嘘なのね。」

周りの目を気にして座りなおした水銀燈の顔には
ありありと、嘘を吐くな、と書いてあった。
本当なのに。

「本当よ?初めて会ったとき、他の席もあったのに
 私の隣に座りたいって言ってくれたから。」
「……それだけ?それで一目惚れ?」
「私は妹達と離れて座ってたの。いつもみたいに。」

初めて会ったときのことを思い出す。
あの子が私に気づいて目を向けたことを。
同じ色の瞳が確かに私を見た。

「妹達と話してる最中に私に気づいて挨拶に来てくれたの。
 私は挨拶が済んだらその子はきっと妹達のそばに座ると思ってた。
 でもその子は私に隣に座っていいですかって聞いてきた。」
「……。」
「妹達のところに戻ると思ってたから咄嗟に断るところだった。
 でもその子、ここがいいんですって言ったの。」
「それで惚れるの?」
「私はそうだった。」
「いつの話?」
「八年前。私が十歳のとき。」
「……何よそれ。それってロマンチックなの?
 それとも単にハードルが低いだけ?」

水銀燈はしばらく罵詈雑言にもならないような文句を並べていたが
キリがついたのか、コーヒーを勢いよく煽った。

「……まぁいいわ。で、その子にどうアプローチするかが問題よ。」
「実験じゃないの?」
「もうこうなればアプローチも同然。
 さっきはあんなこと言ったけど、本当はしてほしいことの一つや二つ
 あるんでしょ?」

さすが水銀燈。
確かにまったく何も望んでいないわけではない。
そう、例えば。

「強いて挙げれば、名前で呼んで欲しい。
 私だけ名前で呼ばれないから……。」
「なんでよ?」
「知らない。私だけお姉ちゃんって呼ばれてる。」
「ふぅん、わざわざ一人だけ?
 そうなるといきなり呼び捨てはありえないし……あだ名とかないの?」
「じゃあ、きらきーちゃん?」
「……きもい。」
「お姉さまひどい……。」

とりあえず名前を呼んでもらうことに決定した。
問題はいつ言うか。

「そういえば今度飲み会あるんだけど、その帰りはどう?
 終電がなくなったとか、お金なくて帰れないとか、理由は
 なんでもいいけど会いに行く口実を……ああ、でも中学生だし外出はダメか。
 だからって家に上げてもらうわけにもいかないし。」
「いえ、お酒禁止って言われそうだけど会いに行く分には怒られないし
 泊めてもらえるかも知れない。
 ただ、夜更かしすることになるから好ましくはないけど。」
「……夜に急にお邪魔しても怒られなくて泊めてもらえるって、どんな関係よ。」
「従姉妹。父の弟の娘。」
「ああ、親戚ね。なるほどね……。」

もう五月も終わる。
大学入学から約二ヶ月。
私と水銀燈による愛についての議論はいつのまにか
好きな人にアプローチする方法に摩り替わっていた。
さて、吉と出るか凶と出るか。



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