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SS:招かれざるもの

招かれざるもの CP:雪華綺晶←薔薇水晶 ※擬人化

覚えなきことの続き

親戚のお姉ちゃんたちだよ。

それは六つのとき。
小学校に上がったばかりの私は初めて従姉妹に会うことになった。
招かれたのはここは本当に日本かと疑いたくなるような西洋屋敷。
赤、白、黄色の薔薇が咲く庭園を臨む大広間の
三十人くらいは座れそうな大きなテーブルに
二人の女の子が座っていた。
扉の近くに赤い服の子。
その隣に黄色い服の子。
それぞれ胸に服と同じ色の薔薇を一輪挿している。
父は薔薇を取ってくると言うと大広間を出て行ってしまった。
いきなり一人にされてどうすればいいのか分からなくて、
入り口に立ち尽くしていると二人が話しかけてくれた。

金糸雀よ。よろしくかしら。
はじめまして、真紅よ。あなた、いくつなの?
……薔薇水晶です。今度七歳になります。
わぁ、真紅より小さいのね。カナは九歳よ。
なかなか礼儀正しい子ね。私は八歳。

金糸雀は明るくて特徴的な口調をしていた。
真紅は年不相応な落ち着きがあってプライドが高そう。
二人の席に近づいて軽く会話を交わしていると、ふと
大広間の奥の方、二人から十席以上奥に白い服の子が座っていた。
当時の私は年相応に背が低く、入り口付近では置くが見えず
気づかなかったのだ。

あの子は?
……姉よ。金糸雀は次女で、私は三女なの。

真紅がそれだけ言うと二人は口を噤んだ。
よっぽど仲が悪いのかは分からないが
もう一度白い服の子を見ると、なるほど。
その存在は異質だった。
言うなれば白い羊の群れにいる黒い羊。
ただ座っているだけなのに、二人とはなにもかもが
かけ離れすぎていた。
そんな他の姉妹たちとは全く異質な存在であることが
一目で感じ取れのに、私は何を思ったか
ひとりぽつんと座っているその子のもとに向かった。
強いて言えば顔だろう。
もっとよく見たいと思った。
遠目にもなんとなく似ているように見えたからだ。
金糸雀も真紅も止めるようなことはしなかった。
若干金糸雀がまごついたが、真紅は
我関せずといった様子で紅茶を啜っていた。
顔を間近で見てますます血のつながりを感じた。
髪の色こそ私の紫がかった銀色と違って
温かみのある薄桃色だったが、
瞳の色は、同じ金色。
肌も私と同じくらいか、それ以上に白い。
従姉妹の中では最も近い容姿だろう。
むしろ私のほうがよほど姉妹らしい。

……はじめまして、薔薇水晶です。
隣に座ってもいいですか。

たくさん話がしたいと思って思い切って
隣席を申し込む。否やとは言わないだろう。
だがその子はこう言った。

私の隣でいいの?

奇妙なことだ。
普通ならどうぞ、と言うところで。
空席ばかり目立つやたら大きなテーブルで、
しかも席はおそらく自由でかまわないはずなのに
隣席に座るのを断る謂れはないはず。

ここがいいんです。

そう答えると、その子は椅子を降りて
執事よろしく私のために椅子を引いてくれた。
その後、また席に着いたその子は名乗った。

長女の雪華綺晶です。よろしく。



*



自己紹介でその子は好きなものに白い薔薇を挙げた。
今私に向けられる、芳しい香りを放つ白い薔薇を。

「……ごめんなさい。酔っ払いお断り。」
「じゃあ家の前にいるのはだァれ?」
「それは多分……おばかさんにしか見えない幻。」
「薔薇水晶、お姉さまみたい……。」
「お姉ちゃん、長女じゃ……?」
「……さぁ?」

二十本はありそうな見事な薔薇の花束を受け取ると家に入る。
事前に水を入れておいた花瓶に出来るだけ見栄えよく挿した。

「花瓶はないんじゃなかったの?」
「こんなこともあろうかと……。
 絶対持ってくるだろうから買った。」
「ふふ、すごい……。」

白い薔薇は清らかで気品がある。
たまには花を飾る生活もいいかも知れない。

「……で、お姉さまってなに。」
「さっきのお姉さまって言うのは……友だち。
 たまにそう呼んでるの。」

衝撃だった。
その性格から実の姉妹にも疎まれる従姉妹に友人がいるとは。
どんな奇特な人だろう。

「どんな人?」
「髪の色は、そう薔薇水晶よりももっと冷たい色……。」
「冷たい色?」
「銀色。凍えるような寒さに、ずっと身を晒しているから……。」

まるで台本があるかのように朗々と読み上げる姿は嫌いじゃない。
彼女の姉妹は、特に三女の真紅はこれを
殊更嫌っていた。
語り口がいやなのではない。時にその切り口に感心さえすると
言っていた。だがどうしても受け付けないのだと。
曰く、「招かれざるものが詰まっている」。

「水銀燈はかわいそう。寒さに凍え続けて四肢五体がひび割れて
 端から体が崩れ落ちていくの。……いつか壊れてしまうかもしれない。」
「壊れる……死ぬってこと?寒さって?」
「死……壊れればいつか朽ちて消えていく。
 寒さ……それは与えられない苦しみ。」

与えられない苦しみに耐え切れなくなり、いつか体を壊し
命も尽きる、ということか。
語りは金糸雀も苦手だと言っていた。
意味が分からないから。

「その人は今もずっと耐えてるの?」

彼女は頷きながら花瓶から覗く薔薇の棘をつっついた。
指に乗っている爪はよく手入れされているのか
ぴかぴかに輝いている。

「その人強いね……。
 壊れないよ、きっと。」
「どうしてそう思うの?」

別に壊れない、という確信があるわけではない。
ただただ耐えるしかないその人があわれで
どうか壊れないでくれ、と願ったに過ぎない。
強いて理由を挙げるとすればひとつ。

「お姉ちゃんの友達だから。」
「……それはイヤミ?」

理解不可能な性格で。
とらえどころのない、異質な存在。
彼女に人はほとんど寄り付かない。
そんな人がわざわざ口に出して友達という人を
裏切る可能性はゼロに近い。
ゼロではないのは、きっと愛嬌だ。
とにもかくにも、壊れてしまう前に彼女は
友達を助けるだろう。多分。

「……かもしれないね。」
「ひどい。」

いつもの微笑みのまま、椅子の下で軽く蹴りをもらった。

「……もう寝ようか。」



*



客間に案内しておやすみの挨拶をするとお土産の約束をした日
――つまりファーストキス事件の翌日――のように抱きつかれた。
ああ、またかと脳の冷静な部分が言うと、それ以外の部分が
ああ、まただよ!とまるで非難するように答える。
また前回と違って、今度は二人とも床に立っているから
自分の顔の横に顔があるが、抱きしめられているという点においては
変わらない。

「お姉ちゃん?」
「ねぇ、薔薇水晶。強い人はひとりでも大丈夫だと思う?」
「……思う。でも」

でも?
耳に息を吹きかけるように囁くのは止めて欲しい。
背筋がぞわりと粟立ち、はしたなくも艶めいたことを
期待してしまいそうになる自分を見つけて、それこそ壊れたくなってしまう。

「強いからってなんでもできるわけじゃない。
 強いからって支えちゃいけない、なんてことはない……と思う。」
「薔薇水晶は強いのね……。」
「お姉ちゃんのほうがよっぽど……。」

彼女のほうが、よっぽど強い。



*



初めて会った日、自己紹介で好きなものに白い薔薇を挙げた彼女は、
お近づきの印に、と胸に挿した一輪の白薔薇をくれた。
しばらくして戻ってきた父は、それを見て苦い顔をした。
どうやら服と同色の薔薇を付けたかったらしい。
結局、私は父が手ずからに取ってきた紫の薔薇を挿すことになり
白い薔薇はお返しすることになった。
紫のドレスに白い薔薇は悪くない取り合わせだったし、なにより
好意を無碍に扱ったのが申し訳なくて謝ると、彼女は
お揃いじゃなくて残念と笑った。
彼女は髪にも白い薔薇の髪飾りをつけていて、私が白薔薇を胸に挿せば
大小の違いはあれど確かにお揃いだった。
彼女が誰かとお揃いになりたかったのかは分からない。
姉妹からあからさまに離れた席に座って、それを咎める親もいない、
そんな状況で誰かとお揃いになりたいと彼女が本当に思ったとして。
もしそうなら、「招かれざるもの」の正体は
案外寂しさや弱さなのかも知れない。
それなら真紅が嫌がるのも分かる。
だってあの子はとても気位が高いから。



*



私よりもよっぽど強い彼女。

「お姉ちゃんは強いよ……。本当に。」
「そうかしら……。」

でも「招かれざるもの」が正体が私が考えたそれだったとして。
真紅の言うようにそれが詰まっているとして。

「でも、だからってやっぱりなんでもできるわけじゃないし
 支えちゃいけないわけじゃないから。」
「……。」
「頼りにくいかもしれないけど、もっと……頼っていいよ。」

彼女への気持ちをひた隠しにしたのに出た言葉は
まるで告白のようで恥ずかしい。

「……嬉しい。……ありがとう。」

顔は見えないけどその言葉を聞くのも、もう三度目。
でも、それを聞いて私も嬉しくなってしまうのは
結局のところ、私も同じだから。
ああ、でも白い羊の群れの黒い羊なのに
白薔薇の化身のような彼女を抱き返す資格が、私にはほんの少しもない。
だってまた、あの日のようになれたらと願っている。
彼女が腕を解いてくれるまで、私はただ立ち尽くしていた。



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