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はるよこい CP:フェイなの

某所閉鎖イベント提出作品。

四月も目前のある日。
庭の掃除を任せられたなのはを手伝っていると
指先で軽く肩をつっつかれた。
なんだろうと思いつつ顔を上げると、なのはは
静かに私の背後を指差した。
何も言わないのを不思議に思いながら振り返ると
庭の隅にある茂みに、音を立てて小さな鳥が飛び込んだ。
その姿になぜなのはが声を出さなかったが合点がいった。
顔を元に戻せば思ったとおり口元に指を当てて無言の合図。
分かっているよ、と頷き返せばまた背後の茂みで音がする。
短い口ばしに円らな瞳。
緑がかった茶色い背中。
こそり、こそりと春を告げる鳥が茂みから顔を出した。



*



上を見たかと思えば下を向き、
また上を見て下を向き。
忙しそうにくるくるとよく動く。
落ち着きのない子供のようなところが
鳥類のかわいさというものなんだろうか。
鶯の少し早い訪問に、なんとなく掃除がしにくくなった
私たちは揃って縁側に腰掛け鶯の観察に勤しんでいた。
四月が目前とはいえまだ上着は手放せない中を
身を寄せ合ってやり過ごす。
スカート越しに伝わる縁側の冷たさ。
肌を撫でるような三月の風にゆらめく池の水面。
久しぶりに絡めた火照った指先。
二人と一羽以外、誰もいない庭は
肌に感じる寒さと、静けさと、ほんの少しの暖かさに満ちていた。
日本で暮らして早幾年月。
そういう、季節に合った過ごし方を身に付けたのは一体いつだったか。
庭の隅にいた鶯は、邪魔な人間がいないのに気をよくしたのか
いつのまにか池のそばまで来ていた。
頭を傾け水を飲めば、口ばしから零れた滴が水面に波紋を広げる。

「もうすぐ春なんだねぇ。」

しみじみとなのはが呟く。
そう、もうすぐ春が来る。
雲が空を流れ雨が降り、冷たい風が通り過ぎて春が来る。
そして春を告げる鶯の声を聞きながら二人、
またこの庭を眺めたい。
雲が流れる空の下。
ゆらめく水面をそのままに。
やがて喉を潤すことに満足したのか、春を告げる鳥は
青い空へ消えた。
春は、もうすぐそこに。



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