« 弁解の余地なし | トップページ | 拍手返信 »

SS:子どもの恋

子どもの恋 CP:アリすず

書き方を変えていて、いつもより変なところでの改行が多いので
少々見にくいと思います。

いつも堂々としている、と。
自信に満ち溢れている、と。
そう言われているのを知っている。

それは世間知らずなだけだ、と。
まだ子どもなだけだ、と。
そう言われているのも知っている。

だから恐れるものなどないのだ、と。
そう、噂されているのを知っている。

まっすぐで力強く、公平で公正で、恐れを知らぬ子ども。
そう、評されているのを知っている。

そう、彼女は子どもだ。
まっすぐで力強く、公平で公正な、ただの子どもだ。
でも、私は知っている。
子どもは子どもでも、恐れを知らぬ子どもではない。
彼女だって恐れるものはあるのだ、と。
私は知っている。



*



私を見ている。
射抜くような鋭い眼差しが、私を見ている。
それに素知らぬふりをして窓辺に近付く。

冬の日暮れは早い。
窓から漂ってくる冷気を断つためカーテンを引いた。

「……ねぇ。」
「どうかしたの?」

いつもより低い声に振り向けば、憮然とした顔が出迎える。

「……日曜日にさ、どこかの学校の男子となんか話してなかった?
 ラケット担いだやつ。」
「……ああ、道を教えてたんだよ。男子テニス部の練習試合の相手だったみたい。
 現地集合だったんだけど、こっちにくるの初めてで道に迷ったらしくて。」
「ふぅん。」
「見てたなら声掛けてくれればよかったのに。」
「別にたまたま通りがかっただけだし。ちょっと急ぎの用もあったから
 ほんとにちらっと見ただけよ。」

自分の予定を知られた上での発言は、さぞ罰が悪いだろう。
私は彼女の捻たようでまっすぐな性根が、まっすぐなようで
回りくどい言葉が、大好きだった。

「やきもち?」
「焼いてないわよ!」

私の言葉で顔を赤くするのが好きだ。

「そうなの?残念だなあ。」
「だからなんていうか、あれは……。」

私の言葉から顔を背けようとするのが好きだ。

「絡まれてたんじゃないかと心配してたの。ほんとになにもなかったの?」

私の言葉を真に受けないで気遣ってくれるのが好きだ。

「なにも。」
「ほんとに?」

私を信じないのが好きだ。

「なにもなかったよ。」
「ま、あっても困るけど。ないならいいのよ。」

力を抜いて広いソファの背に体を凭れかけるのを見守る。

「ねぇ、アリサちゃん。」
「ん?」
「心配してくれたの?」
「そりゃあねぇ。」
「やきもちは、焼いてくれなかったの?」
「やきもち焼く以前の問題でしょ。」
「そう、でもほんとはね。」

告白されてたんだよ、とデタラメを言ってみようかと思って、止めた。
だって口に出さなくたって、表情で伝わるから。
彼女の表情が強張る。

「なに、よ。」

嫉みも、妬みも、そこにはない。
あるのは恐れだけ。

「……嘘だよ。やきもち焼いてほしくてちょっと意地悪したの。
 ごめんなさい。」

ほっと、息を吐く彼女の顔は美しい。
ああ、好きな人を掌の上で転がすことへの喜びがむくむくと
湧き出てくる。
なんて楽しい。
なんて嬉しい。

「アリサちゃん、好きだよ。」
「すずか……。」

私の掌の上で、この上なく愛くるしく踊る彼女が好きだ。

「心配してくれて、嬉しかったよ。」

右へ。左へ。後ろへ。前へ。
くるくるとよく転がる彼女が好きだ。

「ねぇ、アリサちゃん。キスして。」

唇は最後に取っておきたいから。

「足に。」

私が楽しくなって、嬉しくなって、つい掌の上で物事を弄ぶのに
付き合ってくれる彼女が好きだ。

掌の上にいる彼女を、握りつぶしてしまうかもしれないのに、
最後までそばにいてくれる彼女が好きだ。

恐れを知らぬ子どもだった彼女が、私で恐怖を覚えてくれたのが好きだ。

私が好きな人を、こうして弄んで楽しむわるい癖があるのは知っている。
でも、それはあくまで私の一面に過ぎないのに気付いてくれている彼女が好きだ。

掌の上で物事を転がす遊びなんて、目の前に好きな人がいれば
本当は路肩の石ほどの価値もない。

こんなのはただの遊びに過ぎない。

私たちが面白おかしく過ごすための、日常をわずかに色づけるための筆に過ぎない。

でも、本気なのだ。
遊んでいるけれど、本気なのだ。
本気だけど、遊んでいるんだ。

ただ、私の手を取り一人掛けのソファまで優しくエスコートしてくれる彼女が好きだ。

ただ、私の靴を丁寧に脱がし、足の甲に躊躇なく口付けてくれる彼女が好きだ。

物言わず、口付けを繰り返す彼女が好きだ。

恐れを知らぬ子どもだった彼女が、私で恐怖を覚えてくれたのが好きだ。

彼女はなにもかも私で覚えてくれる。
恋も。愛も。心も。体も。痛みも。妬みも。嫉みも。恐れも。
私で学んでくれる。

失うかもしれない恐怖を、眩暈がするような恐怖を。
すべてが崩れるような恐怖を、立ちすくむ恐怖を。
私で覚えてくれたのが好きだ。

絶え間ない恐れを、揺らぎない恐れを。
人知れず抱える彼女が好きだ。

全部全部、私で覚えてくれた。
子どもの恋を、恐れを知っても耐えてくれる彼女が好きだ。

恐れを知らぬ子どもの恋と、恐れを知った子どもの恋。

それだけでなにか変わるわけでもないのに。

本当はなにも怖がることなんてなかったのに、私の掌の上で踊ってくれた彼女が好きだ。

だから今も足の甲に黙って口付けを落とす彼女と戯れたい。

「昔、私がはやてちゃんを好きだって勘違いした
 やきもちやきのアリサちゃん?」

返事は足の甲に走る痛みだった。

きゅっ、と反射的に指を突っ張らせると、痛みは消えた。

甘美な痛み。痛みも、彼女は私で覚えてくれた。

歯を立てられた場所も今は唇で優しく撫でられている。

「アリサちゃん、床寒いよね?
 女の子が体冷やしちゃだめだよ。」
「……あんたがさせてるんでしょうが。」

そう、私がさせているの。
でも付き合ってくれるあなたがいないと意味がないの。

恐れなんて知らなくてよかったのに、恐れを知ったあなたが。
まっすぐで力強く、公平で公正で、子どもなあなたが。
私は好きです。



私を失う恐れを知った彼女がいとおしくてたまらない。



|

« 弁解の余地なし | トップページ | 拍手返信 »

なのはSS」カテゴリの記事

子どもの恋(アリすず)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 弁解の余地なし | トップページ | 拍手返信 »