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SS:うつくしい人

うつくしい人 CP:なのは←フェイト

言い訳:気を持たせエンドは難易度高し。
           いま少し時間と予算をいただければ。

私にとって最もうつくしい人といえば母であった。
どんなに気持ちを寄り添わそうとも適わなかった人。
私の前から消えた人。
もう随分と前の話だ。
今でも当時のことを思うと苦い思いがこみ上げるのは否めないが
誰よりもうつくしい人だった。
これ以上うつくしい人はきっと現れないだろうと、母をなくした当時の私は
思っていた。
寄る辺なき私を迎えてくれた人もうつくしかった。
愛情を、慈しむという言葉を教えてくれた人だった。
この二人が私にとって最もうつくしい人なのだと、笑うのに慣れてきた当時の私は
半ば本気で思っていた。
だが、なぜだろう。
どうして今の私には、この二人以上にうつくしいと思う人がいるのだろう。
二人のうつくしき人への思いは長く長く続き、成人を迎えようという今、
もはや真実になっていた。
私はなき母の若返りもしなければ年老いもしない、昔と寸分違わない姿を
今でも鮮明に思い出すことができる。
それは壮絶で、畏怖の念を感じてしまうほどうつくしい。
朗らかで、包み込むような暖かさ。その心根がはっきりと分かる笑顔。
それは甘美で、目を閉じて身を委ねたくなるほどうつくしい。
私の人生をニ等分する、二人の母。
私のうつくしいと思う心を分ける、うつくしい人たち。
二人への思いは少しも減っていないと、胸を張って言えるはずなのに
なぜ、二人以上にうつくしいと思ってしまうのだろう。
私には分からない。

「フェイトちゃん。」
「ん?」
「さっきからずーっと私の顔見てるね。何かついてるかな?」
「ううん。大丈夫だよ。」
「ふーん……。」

少しだけ顔が近付いて覗き込んでくる。
それを逸らすことなく見返しながら頭の片隅から
今日の目的を拾い上げる。
花火を見ること。
久しぶりに休暇が揃ったから一緒に。
それだけ。
でもとても重要なこと。
それなのに私は彼女の顔ばかり見ていた。
機嫌を損ねてしまったのかも知れない、とようやく思い至ると
顔が離れる。
小さなため息が聞こえた。

「フェイトちゃん鈍感すぎ……。」
「え?」
「なんでもないよ。」

そうは言うけれど不満顔が浮かび、
ふいっとそっぽを向かれるのと同時に花火が始まった。



*



花火は美しかった、と思う。
私は彼女から一歩下がって、薄く微笑みながら花火を見る彼女の横顔を見ていた。
打ち上げられるたびに浮かび上がる輪郭。
花火の色に、その輪郭も、髪も、肌も染まる。
私は花火が続く間中、ただ彼女だけを見ていた。
まっすぐに空へ向けられた視線はちらとももらえず、声も飛んでこない。
私が見ていることに気付いているはずなのに、さっきのように
何かを言われることはなかった。
やがて花火が終わる。
元の静寂が戻った空は暗かった。
心持ち上を向いていた顔が、ゆっくりと振り返る。
花火が始まる前と違い、笑顔だった。
それを見て私はまた、なぜだろう、と思った。
夜空に向けた微笑よりも、私に向けられた笑顔のほうが
うつくしいと思うのは、なぜだろう。
それが最もうつくしいと感じてしまうのは、
なぜ、なんだろう。



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